洗いに始まり
洗いに終わる
福寿の特徴である「凛とした骨格」を生み出すため、丁寧に「米」を洗います。雑味のもととなる糠を徹底的に落として、次工程のために「米」の形状をできるだけ保つために、従来の手洗いをやめて、気泡で優しく洗う洗米機を使用しています。
福寿は「米」の吸水率を30%としています。そして、洗米、浸漬ともに水温7℃を維持しています。水温が高いと吸水速度があがり、さらに洗米と浸漬で使用する水温に差があると「米」が割れる原因になります。そのために、水温と時間を厳密にコントロールして、浸漬を行います。
「炊く」ではなく「蒸す」
福寿の麹は「外硬内軟(がいこうないなん)」といわれる理想の蒸米から高品質の麹づくりを行うために、昔ながらの甑(こしき)と呼ばれる蒸し器を用います。100℃以上の強い乾燥蒸気(「Dry Steam」とも呼ばれる)で60分間しっかりと米を蒸し上げると、米の外側が固く乾燥し、米の内側は軟らかくなります(外硬内軟)。麹づくりの工程で蒸し米に振りかけられた麹菌の菌糸は水分を求めて軟らかい米の内側に食い込んでいきます。甑(こしき)を使用することで、きめ細やかな温度と蒸気量、時間のコントロールができます。
手造りにこだわる福寿の麹づくり
酒造りの上で最も重要とも言われる「麹づくり」は、伝統的な杉材の麹室(こうじむろ)にて、すべて手づくりで行っています。麹づくりにおける水分コントロールには人の手を介することが不可欠であり、福寿独自の風味を表現するための重要な工程のひとつです。
麹とは、蒸米に麹菌の菌糸が食い込んでいる状態です。麹の水分含有量が少ない方が発酵段階で吟醸香を獲得しやすいことがわかっています。従来は職人の勘に頼っていた工程でしたが、福寿では電子重量計を導入することで麹米の水分量を正確に測定することで思い通りの麹づくりを行うことができるようになりました。また、微妙な湿度と温度の徹底したコントロールのために、従来素材の布ではなく最先端の素材を使用した麹づくりを行っています。
繊細な味わいが特長である最上の大吟醸酒造りにおいては「タライ麹づくり」を採用しています。麹菌による発熱と余分な水分蒸発を同時に促し、酒造りに必須のアミラーゼと呼ばれる酵素を望み通りに得ることができる画期的な手法です。
原料処理の洗米から出麹(でこうじ:完成した麹が麹室から出ること)に至る各段階において麹の状貌(じょうぼう)・香り・味・手触りなどを蔵人の五感で確かめながら、感覚官能評価と計測値の両輪を駆使した麹づくりを行っています。
近代的な酒母づくりと
伝統的な酒母づくり
当蔵は高温糖化と呼ばれる近代の技術を活かした酒母を主に採用しており、福寿の味わいの特徴の一つの「凛とした骨格」を実現しています。高温糖化酒母は、高温で糖化(米のデンプンが麹の生み出す酵素「アミラーゼ」の力でぶどう糖になること)されるために短期間につくることができ、すっきりとした味わいをもたらします。
同時に当蔵では、江戸時代から続く伝承技法「生酛(きもと)づくり」も行っています。全国千数百蔵の中でこれを伝承する蔵は少ないですが、手から手へと受け継がれてきた生酛づくりの技を当蔵は伝承しています。生酛づくりにおいては昔ながらの手作業により約4週間かけて、水と米と麹から酒母をつくり上げます。
なめらかさを生む醪(もろみ)
酒母・麹・掛米(冷却した蒸米)・水を3回に分け4日間にわたり混ぜ合わせることで醪をつくります。糖化とともに起こるアルコール発酵によって品温が徐々に上昇しますが、大吟醸酒や純米大吟醸酒などは低温状態を維持させることで洗練された香味となるように注意を払います。福寿のフラッグシップである純米吟醸酒の醪では、加える酒母の割合を抑え、かたや水の量を通常よりも増量します。この工夫によって酸度を抑えた純米吟醸酒の柔らかな口当たりを実現しています。
繊細さを際立たせる
搾り・上槽(じょうそう)
最高級の大吟醸酒や純米大吟醸酒は、醪(もろみ)を酒袋に入れて吊るし、全く圧力を加えずに滴り落ちる酒だけを斗瓶(とびん)に集める「袋搾り」を行います。この手法では、下準備から実際の作業まで、手間と時間がかかり、採れる酒の量はわずかという、極めて贅沢な搾り方です。これにより、口当たりがまろやかで洗練された香味の酒を得ることができます。