高品質な
酒米が
生まれる土壌
日本一の酒米の生産地が位置するのは六甲山の北側(以後、裏六甲)です。六甲山系とは地殻変動と隆起によりできあがった、標高931メートルの最高峰を頂とする、東西に30㎞余りに連なる山系。全山が1億年前の中世代白亜紀に生まれたほぼ混じりけのない花崗岩で形成されています。100万年以上前に六甲山系を隆起させた大地殻変動(六甲変動)以来、幾度となく地殻変動に見舞われ、花崗岩に多数の断層が生じ、これが風化して砂や粘土に分解されました。
この分解された花崗岩は裏六甲に広がる米作地帯の土壌に大きな影響を与えています。この土壌には、その花崗岩由来の「モンモリロナイト(写真)」と呼ばれる粘土質の鉱物が多く含まれています。この鉱物は、稲の成長や良質な味わいを形成する為に欠かせない肥料であるカリウムや石灰、マグネシウムなどを豊かに保持します。その結果、稲の健全な成長を促し、粒の大きい良質米の生産につながっています。水田は、粘土層と砂土(さど)層が交互に重なっています。中でも強粘土層は水を逃さない上に、根の成長を促進させ、この地で育まれる背丈の高い山田錦の倒状を防ぎます。
酒米の栽培に適した気候
裏六甲は、雨の多い六甲山の北側(以後、表六甲)とは異なり、おだやかで晴れの多い瀬戸内海式気候です。年間を通じた日照時間は、1,850時間で平均気温は14.4℃、そして、年間降水量は1.198mlとなっています。標高が50〜200メートルの山麓や東西に伸びた谷あい(幅は約200m)に水田が広がっています。夏の夜には瀬戸内海から暖かい風が北上しますが、六甲山にさえぎられ、夜の気温は上がりません。そのため、米が熟れだす「登熟期(とうじゅくき)」における昼夜の寒暖差は10℃以上となり、品質の高い米が育つ環境が整っています。
六甲テロワールから生まれる
酒米「山田錦」
酒造りでは、3つの特徴を持つ米を重宝します。まず、精白した(米の表面の糠を落とし磨くこと)米を使うことから、米が大粒であることが重要です。1,000粒の重量である千粒重という指標がありますが、山田錦は、25g~29gであり、一般米のコシヒカリと比べて約5gも重いことが知られています。
二つ目は、心白(写真)と呼ばれるでんぷん質部分です。心白はが白く見えるのは、隙間が生じているためで、麹をつくる際には麹菌が菌糸を伸ばすのに好都合です。山田錦の心白は大きさや形状、共に完璧ともいえる性質を有しています。麹菌は菌糸を伸ばす際に酒造りに必要な酵素を生み出しますから、よい心白はよい麹づくりを行うために欠かせません。
最後は、低タンパクの米であることです。タンパク質は米の外側に多く含まれており、うまみ成分であるアミノ酸の元になります。しかしながらタンパク質が多すぎると味わいが「くどく」なり、雑味が増してきます。山田錦はタンパク質含有量が他品種より低いことから、生み出されるお酒は雑味がなく、気品のある味わいを得ることができます。
これらのすべての理想条件を兼ね備えている山田錦を用いた当蔵の酒造りには、六甲テロワール、そしてその恩恵を受ける水田が密接に結び付いています。福寿の醸造技術と山田錦が相まって「ふくよかで芳醇な味わい」「凛とした骨格」が実現されています。